スタジオジブリの宮崎駿監督最新作「君たちはどう生きるか」を見てきました。
結論から言いたいのですが、結論を言えない感じの感想なので、読んでもいいよという方だけお願いします。
見る前から泣きそうになっていたのですが…
みる前
宣伝なしという挑戦
宮崎駿監督とタッグを組んで歴史的な宣伝・作品作りに取り組んできた鈴木敏夫さんの今回の挑戦は「宣伝なし」という選択でした。
レジェンドスタジオであるジブリならではの伝説的な戦略だと思いますが、ジブリ大好きな私でも公開日を知るのは2週間前という時期で、周りの人たちに聞いても知らないという人がほとんどでした。
それでも、上映開始日には地方の劇場でもほぼ満席の人気ぶり。宣伝なしという挑戦は大成功ではないでしょうか。
通常、映画の売り上げというのは興行収入に宣伝費用を引いた配給収入で決まります。黒字化ラインというのは興行収入ではなく、利益になるので今回の作品はいままでのような映画興行のあり方を変えてしまう可能性もあるのです。
宣伝なしって、なんで?? どういう狙いなの? というのはわからなかったのですが、ふたを開けてみるとなんとなくわかるような…
さまざまな憶測
宣伝なしということで、私も前情報は極力入れずにみることにしました。
それと同時に、宣伝なしなのでみんなが気になって情報の拡散速度がかなり大きく変わっていると感じます。
「声優はあの人らしい」
「パンフレットはこうらしい」
「登場人物はこうらしい」
「ナウシカみたいなのでは?」
という、普段では話題にならないような切り口でも、みんなが興味を持って情報を共有します。
コンテンツパワーが圧倒的だからこそできる宣伝ではありますが、圧倒的な人気・力を感じました。
「ジブリ」「宮崎駿」が詰まった作品になるのか
と思うとみる前から期待と涙が止まりません。
私にとって、鈴木敏夫さんと宮崎駿監督のタッグは伝説的な存在ですが、それ以上に高畑勲監督の面影を感じる瞬間はあるのか、庵野監督の面影を感じる瞬間はあるのかなど色々な期待が入り乱れます。
前置きが長くなってしまいましたが、そろそろ見てみた感想・考察をまずはネタバレなしで紹介したいと思います。
見てみた感想・考察をネタバレなしで紹介します
ということで実際に見てみました。
年齢も性別もバラバラな観客が集まる劇場
宣伝しないということは期待値のコントロールができない、ターゲット外を呼んでしまうということ。劇場につくと年齢、性別も本当にバラバラ、見た目もばらばらな人たちが大勢集まっています。
過去作の中でも「崖の上のポニョ」と「風立ちぬ」はターゲットが真反対と言えるほどターゲットの年齢が離れた作品だと思いますが、それに続く本作を宣伝なし?
期待値のコントロールができず、ターゲット以外の人たちが来る作品というのは、ひょっとしたら、宮崎駿監督といえどひょっとするとおおごけ的な失敗になる可能性をはらむのではないか? と期待と不安を感じます。
宣伝なしは鈴木敏夫さんからのギフトかもしれない
これまでのジブリを宮崎駿監督、高畑勲監督とともに率いてきた名プロデューサーの鈴木敏夫監督は、数々の名宣伝戦略でジブリの歴代興行収入一位の座を守ってきました。(その後鬼滅に抜かれはしますが、鬼滅もジブリの戦略を引き継いだうえに、コロナ禍という特殊な環境での成功と言えると思います)
その鈴木敏夫監督が宣伝なしという戦略を立案したのは、興行的な成功を見込んだ計算づくのものかと思いましたが、このターゲットのバラバラさをみると宣伝なしでの映画公開というのは鈴木敏夫さんが宮崎駿監督へ送った労い・ギフトなのかもしれないと思いました。
というのも、鈴木敏夫さんといえば、私の中では「かぐや姫の物語」で高畑勲監督と宣伝をめぐる攻防を繰り広げ、高畑勲監督が反対した宣伝文句を勝手に起用してでもジブリの興行収入を守るというエピソードを持つ生粋のマーケター。
その人が「宣伝なし」というのはよほどの思い・戦略がないとありえないと思います。(実際に、宣伝していた作品よりも話題の規模は小さかったと思います)
それを、今作では宮崎駿監督に描きたいもの、伝えたいメッセージをふんだんに盛り込んでもらい、これまでの実績で期待して押し寄せる老若男女問わない観客に対して宮崎駿監督の思いを、ターゲットではない人たちにもとにかく伝える場を提供することにしたのではないかと感じました。
それはマーケティング・ニーズが大切にされるコンテンツ産業とはまったく別の、宮崎駿監督という偉大な監督にしかできないアート映画的な方法だと思いました。
「ネタバレなし」の感想
では、実際に見てみた感想はというとネタバレなしで感想を書くのはとても難しいので超短めに書きます。
「集大成」というよりは「ジブリを詰めた作品」という印象をえました。
解説をするとネタバレありになってしまうので、そのほかの感想・考察はネタバレあり編に回します。
↓
見てみた感想・考察を「ネタバレあり」で紹介します
作品全体として宮崎駿監督を感じる作品だと思いました。
物語というよりは世界観、景色、建造物、キャラクターの演出・演技に至るまで宮崎駿監督っぽさを感じる瞬間は節々にありました。
ただ、前半は高畑勲監督を感じる物語の運びで、後半は庵野秀明監督とスタジオポノックを感じる物語の運びだったように感じます。
物語とは別軸の宮崎駿監督の想いや意志が込められているのか? と思いましたが、正直宮崎駿監督の内面はわかないので、鈴木敏夫さんとかの解説を待ちたいと思っています。
前半は静寂、自然、高畑勲。
前半は物語がとても静寂に包まれ、不気味な様子で進んでいきます。
戦争のシーンから物語ははじまり、主人公をはじめ周りの登場人物はそれぞれ闇を抱えて過ごしています。
不気味なうえに、自然や建造物の忠実な描写・作画は高畑勲監督を感じつつも、宮崎駿監督のこだわりを節々に感じます。
自然の美しさは男鹿和雄さんっぽい雰囲気で、建造物には宮崎駿監督らしい魅力を感じます。
後半はファンタジー、精神世界、神と庵野秀明、ポノック。
後半は徐々にファンタジーへと導かれます。
ファンタジーなのか、精神世界なのかわからない表現で見ているときは戸惑いましたが、見ているうちに主人公以外の登場人物が巻き込まれることで精神世界ではないことがわかります。
ただ、見ているときに物語の筋はとおっているように思いつつ、これまでの宮崎駿監督作品にあるようなわかりやすい作品性はないように思いました。
おそらく、物語を面白くとおす・コンテンツとして喜ばせるという作り方ではなく、何か思いを込める・メッセージを伝えるという作り方にしたのか? という想像もしましたが、明確なメッセージはないようにも思いました。
そして、ストーリーは庵野監督を感じる精神世界・神の世界が描かれているようにも感じました。
「君たちはどう生きるか」というのは、みんなにがんばれよってことではない気がする
君たちはどう生きるかというタイトルは説教にも感じますが、タイトル回収は作品中に出てきた君たちはどう生きるかの作品、あとは大叔父のつみきくらいにしか感じられませんでした。
宮崎駿監督がメッセージを詰め込むとしたら、もっと淡白にするか、説明しないか、あるいはもっと強烈に詰め込む気がするのでおそらくそれは違うと思いました。
というか、大叔父がつみきを用いて「君が後をついで、この世界をつくるのだ」的な話をして、主人公が「いや、僕は現実に戻って清濁合わせ飲む」(適当)みたいなセリフをいったのは、庵野監督がシンエヴァンゲリオンで描いたメッセージにめっちゃ似ている気がしたんですよね。
ただ、あれは私は観客に向けてというよりはスタジオジブリで働くクリエイターたちに、大叔父=宮崎駿監督の描いた白いつみき(素晴らしすぎるジブリの世界)を見習うのではなく、自分たちのつみきをつくってねというメッセージのように感じました。
ジブリパークっぽさも感じる
あと、ジブリパークのジブリの大倉庫も行ったのですが、思ったよりもジブリパークはアトラクション・世界観というよりフォトスポット的な楽しみ方だったんです。
この作品にも似たような感覚を覚えたというか、フォトスポット的な、思い出巡り的な感覚もありました。
エンドロールに溢れる有名なジブリ関係者の数々。私は高畑勲監督作品が好きなので、男鹿和雄さんとか田辺修さんなどの名前を見た時におおーっと感動しました。
ほかにも大勢のスターがいたそうですが、なんとなく感謝祭っぽい雰囲気も感じます。
賛否があるのは最大の賛辞なのではないか
ジブリ史上最高の興行成績を収めた千と千尋の神隠しは、私の世代では好きな人が多い一方で、私より年上の人たちは「面白さがわからない」「もののけ姫の方が好き」「やっぱりラピュタ」という意見の人が多い気がします。
それは、千と千尋の神隠しが大ヒットしたおかげで、ターゲットではない人たちが多く目にしたことが理由だと思います。
この作品はレビューサイトでもかなり票が分かれたそうですが、それは宣伝をしたら来なかった層が見にきたということも示していると思います。
作品の価値は、アート作品と同じで解説なしでは理解できない、今までのジブリ作品とは一線を画しているかもしれませんが、ジブリファンとして宮崎駿監督の描いたものを疑い、否定するよりも、どう解釈すればいいのか、どのような価値があるのかを理解する努力(教養の獲得)をして楽しむ側に回りたいと感じました。
かつて、鈴木敏夫さんがアニメージュの編集者だった頃。まだジブリができる前の宮崎駿監督、高畑勲監督と出会ったときに、二人から「無教養」と馬鹿にされたそうです。
二人はアニメづくりのためにか、人生のためにかはわかりませんが、文化史の研究やテレビ番組、書籍のインプットに熱心で、これは知ってる? これは知らないの? と鈴木敏夫さんに詰め寄ったそうですが、鈴木敏夫さんはそのエネルギーに魅了されたといいます。
(これらの作品の一部がジブリライブラリーとしてDVDや書籍としてジブリから販売されています)
宮崎駿監督にとって最後の長編作品になるかもしれないこの映画を、私たちは教養の獲得をしてでも楽しむべきなのかもと思います。
という感じでした。私はジブリが大好きなのですが、世代的にもジブリ作品を映画館で見たのはかなり少ないです。
再上映も含めて劇場で観るチャンスはとても少なく、DVDやビデオばかりだったので、劇場で観れたことにとても感動しました。観れただけで最高です。
まとめ
ということで、ジブリ最新作「君たちはどう生きるか」レビューでした。
今回は即出しのためにあらすじは省きました。(あと、あらすじの解釈ができてない)
もう少し情報を集めて続報を紹介したいと思います。それでは。
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